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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)7051号 判決

アメリカ合衆国カリフオルニア州 コンブトン クラツドウイツク ストリート 二〇〇六

原告

ウインドサーフイン インターナショナル インコーホレ イテツド

右代表者

ホイール シユバイツアー

東京都渋谷区本町一丁目六〇番三号

原告

勝和機工株式会杜

右代表者代表取締役

鈴木東英

原告ら訴訟代理人弁護士

三宅正雄

安江邦治

右輔佐人弁理士

松永宣行

大阪市住之江区中加賀屋四丁目四番一八号

被告

大三商事株式会社

右代表者代表取締役

柴田鄭二郎

右訴訟代理人弁護士

牛田利治

白波利文夫

右輔佐人弁理士

大西孝治

右当事者間の昭和六二年(ワ)第七〇五一号損害賠償請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告ら各自に対し、一〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告勝和機工株式会社(以下「原告勝和機工」という。)に対し、二〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1(一)  原告ウインドサーフイン インターナショナル インコーボレイテツド(以下「原告ウインドサーフイン」という。)は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有していた。

特許番号 第六三〇三五二号

発明の名称 風力推進装置

出願日 昭和四四年三月一一日

公告日 昭和四六年五月三一日

登録日 同四七年一月一一日

存続期間満了の日 同六一年五月三一日

(二)  原告勝和機工は、本件特許権について、原告ウインドサーフインから、次のとおり、範囲を日本国全域とする独占的通常実施権の許諾ないし専用実施権の設定を受けていた。

(1) 昭和四九年八月二〇日から同五六年三月二七日まで 独占的通常実施権

(2) 同五六年三月二八日から同五九年八月二〇日まで専用実施権

(3) 同五九年八月二一日から同六一年一月二七日まで独占的通常実施権

(4) 同六一年一月二八日から同年五月三一日まで 専用実施権

2  本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(ただし、昭和五八年七月二七日付訂正審判請求に基づき訂正したもの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、本判決添付の特許審判請求公告中の訂正明細書(以下「本件訂正公報」という。)の特許請求の範囲の項記載のとおりである。

3  被告は、昭和五九年頃から、同六一年五月三一日までの間、業として、別紙目録記載の風力推進波乗り装置(以下「被告製品」という。)及び本体装置(以下「被告本体装置」という。)を販売した。

4  被告製品は、次に述べるとおり、本件発明の構成要件をすべて充足し、その作用効果も本件発明のそれと同一であるから、本件発明の技術的範囲に属する。また、被告本体装置は、本件発明の風力推進装置の生産にのみ使用する物である。

(一)(1) 本件発明の構成要件は、次のとおりである。

A 使用者を支持する本体装置である波乗り板があること

B 推進力として風を受け入れる風力推進手段があること

C 前記風力推進手段は、

ア 円柱と、

イ 該円柱に長い端縁部で取り付けられた帆と、

ウ 前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互いに連結され、かつ、一端で前記円柱に、また、他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、

エ 該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントと

を備えることを特徴としていること

(2) 本件発明の作用効果は、次のとおりである。

波乗り板に帆を設けることによつてこれを水上ボートにかえる場合、突風や厳風によつて波乗り板が転する危険性が大であつたが、本件発明は、突風又は激風が照つた場合、使用者が帆から手をはなし風力により帆を風下に倒すことにより、本体装置の転を免れることができるようにしたものであり、更に、使用者がブームを把持し、風向きに対し、帆の位置及び角度を調節するだけで、波乗り板を使用者の望む万向に進行させることができるという作用効果を有する。

(二)(1) 被告製品は、別紙目録記載のとおりの構造であるところ、

ア 波乗り板である本体装置(ボード部)a(被告製品についてのa、b等の記号は、別紙目録記載の記号を指す。)を有し、かつ、同装置は、使用者を支持するきを有しているので、本件発明の構成要件Aを備えており、

イ マストcにその一辺を装されたセイルbが存在し、また、マストcの下端部が嵌合された弾性の塩化ビニール樹脂からなるジョイントkの下端部は本体装置(ボード部)aに結合され、セイルbが別紙目録の三3に記載する態様の作動(作用効果)をするから、推進力として風を受け入れる風力推進手段を有するものであり、したがつて、本件発明の構成要件Bを備えており、

ウ マストc、セイルb、一対のブームd及びマストcを本体装置(ボード部)aに回転及び起伏自在に連結するジョイントkを備え、かつ、各部材は、別紙目録の三1ないし3に記載する態様の作動をするから、本件発明の構成要件Cを備えている。

(2) 被告製品の作用効果は、本件発明のそれと同一である。

(三) 被告本体装置は、被告製品である風力推進波乗り装置(セイリングボード)に用いられる本体装置(ボード部)aであつて、本件発明の風力推進装置の生産にのみ使用する物である。

5  原告ウインドサーフィン及び原告勝和機工は、原告勝和機工製造に係るセイルボード(以下「原告製品」という。)を原告勝和機工の子会社である訴外ウインドサーフイン・ジヤパンを通じて販売していた。

被告は、原告ウインドサーフインが本件特許権を有し、かつ、原告勝和機工が前記1(二)のとおり独占的通常実施権ないし專用実施権を有することを知りながら、昭和五九年頭から同六一年五月三一日までの間、被告製品及び被告本体装置を少なくとも六〇〇艇販売した。

原告らは、被告の右行為により、原告製品の販売数量が少なくとも六〇〇艇、金額にして一億円減少したため、次のとおり損害を被つた。

(一) 原告勝和機工が原告製品を販売して得る利益は、販売価格の二五パーセントであるから、失つた利益の額は、少なくとも二五〇〇万円(一億円×二五パーセント=二五〇〇万円)を下らない。

(二) 原告ウインドサーフインは、原告勝和機工に対する本件特許権の独占的通常実施権の許諾ないし專用実施権設定の対価として、正味販売価格の六パーセントに相当するロイヤリテイーを受ける権利を有していた。したがつて、原告ウインドサーフインは、原告勝和工が一億円相当の原告製品の販売をすることができなかつたことにより、その六パーセントに相当する六〇〇万円のロイヤリテイー収入を矢い、これと同額の損害を被つた。

6  よつて、原告勝和機工は、被告に対し、前記5(一)の損害二五〇〇万円(ただし、うち六〇〇万円は、原告ウインドサーフィンの請求と不真正連帯債権)のうち三〇〇万円、原告ウインドサーフインは、被告に対し、前記5(二)の損害六〇〇万円(ただし、原告勝和機工の請求と不真正連絡權)のうち一〇〇万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1(一)は認める。同1(二)のうち、原告勝和機工が原告ウインドサーフインから、(2)及び(4)のとおり、範囲を日本国全域とする專用実施権の設定を受けていたことは認め、その余は知らない。

2  同2は認める。

3  同3は認める。

4  同4(一)(1)は認め、同4(一)(2)は知らない。同4(二)(1)のうち、被告製品に使用者を支持する本体装置である波乗り板があること(構成要件A)及び推進力として風を受け入れる風力推進手段があること(同B)は認め、その余は否認する。同4(二)(2)は否認する。同4(三)も否認する。

5  同5は否認する。

三  被告の主張

1(一)  本件発明は、次の各文献に記載されている公知技術に基づいて当業者が容易に発明することができた単なる寄せ集めの発明であつて、進歩性を認めることができず、特許法一二三条一項一号及び二九条二項の規定により無効とされるべきものである。すなわち、(1)本件発明の特許出願の優先権主張日(一九六八年三月二七日)前である昭和四〇年八月二三日に国立国会図書館に受け入れられて公知となつた乙第一号証の米国の雑誌「ポピユラーサイエンス」一九六五年八月号の一三八頁ないし一四一頁には、「SAILBOARDING Exciting New Water Sport」と題する記事が写真及び図面入りで掲載され、そこには、次の技術が開示されている。「使用者を支持する本体装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを含み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に上下両端部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、中央部で前記円柱にまた両端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結されたブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置。」。また、(2)本件発明の特許出願の優先権主張日前である昭和一六年一一月五日に発行されて公知となつた乙第二号証の「帆走の科学」(安田司著、日本機動艇協会「舵」発行所発行)の二〇〇頁ないし二〇五頁には、次の技術が開示されている。「帆船において、円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互いに連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームを備えることを特徴とする、風力推進手段。」。

本件発明は、右(1)の風力推進装置に用いられている波乗り板並びに風力推進手段中の円柱及びユニバーサルジョイントをそのまま採用している。残る帆とブームについては、右(1)の技術が、上下両端部で該円柱に取り付けられ、左右に提出して配置されたいわゆる横帆であつたものを、該円柱に長い端縁部で取り付けられたいわゆる縦帆に置き換え、縦帆を採用した当然の結果として、ブームについても一端を前記円柱に、また、他端を前記帆の帆耳に連結することが必要になるところ、このブームの形態を前記円柱及び帆を間に入れた一対のものとするウイツシユボン型ブームを採用したものである。帆の形態としての縦帆は、横帆と共に、旧来、帆船等の風力推進手段として広く用いられてきた公知の技術であり、その縦帆を用いる場合のブームとして本件発明の特許出願前からウイツシユボン型ブームが存することは、右(2)の文献からも明らかである。一般に、帆船をはじめとする風力推進装置において、風力推進手段たる帆を縦帆型とするか、横帆型とするかは、それぞれの長所、短所あるいは使用者の好みに応じて自由に選択できるものであり、従来技術である右(1)の帆を横帆から縦帆に置き換えることは、当業者であれば容易に思いつくことであり、また、縦帆を採用した場合に、本件発明のように公知のウイツシユボン型ブームを選択することも、当業者にとつて容易なことである。また、右(1)の技術における横帆を本件発明のように縦帆に置き換えることにより、帆走方法及び帆走性能に若干の相違が生ずることはあるが元来、風力推進手段としての縦帆と横帆は、それぞれ特性があり、長所と短所を固有するものであるから、本件発明の風力推進装置が右(1)のそれと帆走方法や帆走性能において相違する面があるのは当然である。このような相違は、特に、本件のような波乗り板に風力推進手段を設置した場合に限らず、広く風力推進装置における縦帆と横帆の構造、機能の相違に由来するものにすぎない。

したがつて、本件発明は、公知技術を寄せ集めたものであつて、特に新たな作用効果を生じさせるものではない。

(二)  本件発明は、以下に述べるとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の項におけるユニバーサルジョイントの構成に関して、当業者に理解不可能な記載がされており、特許法一二三条一項一号及び三六条三項の規定により無効とされるべきものである。

本件発明の構成のうち、ユニバーサルジョイントに関しては、本件明細書の発明の詳細な説明の項に次のように記載されている。「第2図を参照すれば……頭付きピン48のコツタ孔56に挿入されたコツタピン54によつて回転自在に取付けられている。不銹鋼の板で作つたクレビス58が、その側面60(その中の一つだけを図示してある)を締め板延長部42、44の下に横方向になるよう、管46上に配置されている。1/4インチ直径の頭付きピン62(第2図に断面で示す)がクレビスの側面と管46の孔64を貫通しており……ねじ68がクレビス58のペースを充分な遊びをおいて保持し、クレビス58を座金72に接触して回転可能にしている。」(本件訂正公報四頁左欄二〇行ないし右欄一一行)。

右説明のうち、「不銹鋼の板で作つたクレビス58が、……管46上に配置されている。」の部分は、第2図を参照してもなお、当業者が理解することができないものである。すなわち、本件発明においてユニバーサルジョイントの中枢部とみられるクレビス58の形状そのものの説明が不十分であり、かつ、クレビス58と管46を連結している頭付きピン62によつて円柱が図面上左右に傾斜できることが、上記説明及び図面によつては理解することが困難となつている。

したがつて、本件発明は、右の点で当業者が容易にその実施をすることができる程度に構成が開示されておらず、特許法三六条三項の規定に違反する無効原因を内包する。

(三)  本件特許権は、右のとおり無効原因を有しているのであるから、本件明細書に記載された実施例どおりのもののみが本件発明の技術的範囲に属するものと解すべきであり、そうすると、本件発明の「ブーム」と「ユニバーサルジョイント」は、以下のように限定的に解釈されるべきであり、これに対して、被告製品は、本件発明の右の構成を備えておらず、本件明細書記載の実施例どおりのものではないから、本件発明の技術的範囲に属さない。

まず、本件発明の「ブーム」は、円柱及び帆を間に入れて互いに連結され、かつ、一端で前記円柱に、また、他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームとされている。ところで、本件明細書によれば、一対のブーム相互の連結手段及びブームと円柱、帆耳の連結手段は、円柱側(第3図)では一インチの織物テープのループとされ、帆耳側(第4図)では出し索とされており、本件発明の技術的範囲は、右の構成のブームに限定されるべきである。他方、被告製品のブームは、二本のブームを円柱側及び帆耳側でそれぞれジョーと呼ばれる屈曲した管に挿入して連結されており、本件明細書に記載された実施例どおりのものではない。

次に、本件発明における「ユニバーサルジョイント」の構成は、本件明細書における開示が不十分であつて、その内容を把握しいが、ジョイント全体が硬質の不銹鋼で作られているところからして、ねじ68、頭付きピン48、62等の何らかの機能によつて、円柱の回転ないし前後左右への揺動を可能にしたものと考えられる。したがつて、前記限定解釈の趣旨から、本件発明の技術的範囲は、右のようなピン結合の機械的な動きによつてジョイント部での回転ないし揺動を可能にした構成のものに限定されるべきである。他方、被告製品のジョイントkは、弾性の塩化ビニル樹脂を素材に、全体が、鼓の形状で、その下方部分に細く形成された縮径部を有しており、ジョイントkの上には、円柱が、単に、着脱及び回転自在な状態に嵌挿されている。そして、被告製品は、ジョイントkの右縮径部の弾性変形により円柱が前後左右に自由に揺動することが可能となり、しかも、右弾性素材の復元力と使用者の操作方法とが相まつて原形復帰作用による操作の変化を持たせることが可能となつている。

以上によれば、被告製品は、ジョイントkの構成及び作用効果の点でも、本件発明の「ユニバーサルジョイント」と異なつており、本件明細書に記載された実範例どおりのものではない。

2(一)  本件発明は、帆を波乗り板上で回転及び起伏させるための技術手段として、円柱と波乗り板を「ユニバーサルジョイント」によつて連結するものとしている。右の「ユニバーサルジョイント」の意義について、本件発明の特許出類における優先権主張日前の昭和三〇年に社団法人日本機械学会から発行された学術用語集(乙第三号証)は、これを「自在継手」と訳している。また、最近の文献では、昭和六三年に発行された機械工学辞典(乙第四号証)の「自在継手」の項において、英語名を「ユニバーサルジョイント」と並記したうえで、「二軸の交わる角が自由に変化しても(最大三〇度)回転を伝える軸継手を、単に自在継手あるいは自在軸継手といい、両軸の回転が不等速形と等速形の二種類がある。」と定義している。機械工学分野で権威のある辞典の右定義によれば、「ユニバーサルジョイント」とは、二軸を連結し一方の軸の回転を他方の軸に伝える継手において、二軸の交わる角が自由に変化してもなお、回転を伝えることを可能とした構成の継手を指すものである。

ところが、被告製品の「ジョイントk」は、円柱と波乗り板とをあらゆる方向に自由な角度で屈曲しうるように連結するものではあるが、一方の軸の回転を他方のに伝えるといつた構成や機能を保有しておらず、「ユニバーサルジョイント」に当たらない。

(二)  本件明細書によれば、特許権者は、円柱と波乗り板を連結する接手(継手と同義)として、発明の詳細な説明の項の中で、「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状熊にすることができるような接手」と記載し、ユニバーサルジョイント以外の継手もありうる旨を示してはいる。しかしながら、特許権者は、本件発明の特許出願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初の明細書」という。)における余りに広範で不明瞭な特許請求の範囲を本件明細書のように減縮するに際して、連結手段としては、「ユニバーサルジョイント」だけを掲げたのであり、「使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状熊にすることができるような接手」を特許請求の範囲に掲げることはしていない。なお、仮に右の表現をそのまま特許請求の範囲に掲げたとしても、右の表現は、単に効果を述べるのみであり、これを可能にする構成を開示していない。

右の経緯で、特許権者は、円柱と波乗り板の連結手段を「ユニバーサルジョイント」に限定したものであり、それ以外の「使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような継手」に属する被告製品の「ジョイントk」に本件特許権の効力を及ほすことはできない。

3(一)  被告本体装置は、従来から波乗り用に使用されてきた汎用的な波乗り板そのものであつて、一般的に市場で取得することのできるものである。被告本体装置にそのような用途があることも広く知られているところである。もつとも、被告本体装置には上部に風力推進手段を装着するための穴が設けられているが、そのことによつて波乗り板としての効用が損われるということはない。被告本体装置は、通常の波乗り板の場合と同様、水上スキー用にも用いることができ、実際にも使用されているのである。

(二)  被告本体装置は、右に述べた波乗り板と同様の用途に使用されるほか、本件発明とは異なる構成の風力推進装置にも一般的に用いることができるものである。例えば、本件発明は、風力推進手段として「円柱の横方向に配置した一対のブーム」の構成をとつているが、ブームを一本のブームとすることも可能であり、また、その一本のブームを円柱の横方向に配置することなく円柱と交差させる配置をとることもできる。

また、波乗り板に風力推進手段を装着するに際しても、ユニバーサルジョイント以外に円柱を可動状態に保てるジョイントならば、あらゆる形態のものを用いることが可能であり、現に被告本体装置も別のジョイントを用いているのである。

(三)  以上のとおりであつて、被告本体装置は、本件発明の風力推進装置の生産にのみ使用する物に該当せず、したがつて、被告の被告本体装置の販売行為は、本件特許権を侵害するものとみなされることはない。

四  原告らの反論

1  被告の主張1について

被告の主張する乙第一号証の文献には、「前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」の技術は開示されておらず、また、本件明細書の被告引用の所は、本件発明のユニバーサルジョイントの一実施例にすぎない。本件特許権が無効であることを前提とする被告の主張は、いずれもその前提を欠くものである。

2  被告の主張2について

本件発明の「ユニバーサルジョイント」は、「自在継手」を意味するものではなく、「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結する」ジョイントである。したがつて、被告製品の「ジョイントk」は、まさに本件発明のユニバーサルジョイントそのものにほかならない。本件発明の「ユニバーサルジョイント」の意味が右のとおりであることは、特許請求の範囲に、「前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結する」ようなジョイントであると記載されていることから明らかであり、このことはまた、本件明細書において、「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」であると、明確に定義されており、更に、「ユニバーサルジョイント」「例えば三の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」であると、より詳細に定義されているところからも明らかである。

3  被告の主張3について

被告本体装置をいわゆるサーフイン用のボードとして利用する者がいるとしても、それは、フライパンを使用して味噌汁を作る類で、間接侵害の成否には無関係な事実に属する。また、被告本体装置を水上スキー用にも用いることができるという主張についても、その主張自体は極めて抽象的であり、使用の具体的な時期すらも特定されていない一般論あるいは推論の域を出ない。セイリングボードを偶々與として使用した者がいたとしても、そのような使用をもつて、間接侵害を否定することはできない。間接侵害を否定するためには、社会通念上、経済的、商業的ないしは実用的な意味合いでの使用の具体的事実の主張がされなければならない。被告のその余の主張も、右と同様の意味において、意味のない議論である。

第三  証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求の原因1(一)の事実(原告ウインドサーフィンが本件特許権を有していたこと)は、当事者間に争いがない。

同1(二)の事実(原告勝和機工の実施権)については、成立に争いのない甲第一号証(特許登録原簿記録事項証明書)によれば、原告勝和機工は、本件特許権について、原告ウインドサーフインから、昭和四九年八月二〇日、地域を日本国全域、期間を同日から一〇年間とする専用実施権の設定を受け、昭和五六年三月二七日にその登録がされたこと、その後、昭和五九年八月二〇日、地域を日本国全域、期間を同日から特許権存続期間満了(昭和六一年五月三一日)までとする専用実施権の設定を受け、昭和六一年一月二七日にその登録がされたことが認められる(以上の事実のうち、昭和六一年一月二八日から特許権存続期間満了まで、及び、それ以前にも、原告勝和機工が、本件特許権について、地域を日本国全域とする専用実施権を有していたことは当事者間に争いがない。)。

二  請求の原因2の事実(本件明細書の特許請求の範囲の記載)は当事者間に争いがなく、右争いのない事実と成立に争いのない甲第二号証(本件訂正公報)によれば、本件発明の構成要件は、請求の原因4(一)(1)のとおりであると認められる。

三  請求の原因3の事実(被告による被告製品及び被告本体装置の販売)は、当事者間に争いがない。

四  そこで、まず、被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて判断する。

1  被告製品が本件発明の構成要件A及びBを充足することは当事者間に争いがない。原告らは、本件発明の構成要件Cの「ユニバーサルジョイント」は、本件明細書の特許請求の範囲において「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることかできるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」と定義され、発明の詳細な説明の項においても、特定の実施例において「三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」と定義されているものであるから、被告製品ジョイントkは本件発明のユニバーサルジョイントに該当し、したがつて、被告製品は、本件発明の構成要件Cを充足する旨主張し、これに対して、被告は、本件発明のユニバーサルジョイントとは、機械的な構造の「自在継手」を意味するから、被告製品のジョイントkはこれに該当せず、したがつて、被告製品は、右構成要件Cを充足しない旨主張するので、この点について審案する。

2  記掲甲第二号証によれば、次の各事実を認定することができる。

ることができるような接手によつて波乗り板に風力推進手段の円柱が連結されている。」(三頁右欄一三行ないし一七行)、(3)「第1図を参照すれば使用者を支持する波乗り板10と、推進力として風を受け入れる風力推進手段であつて円柱12と三角形の帆14と一対のブーム16、18と円柱12を波乗り板10に回転及び起伏自在に連結する三軸線ユニバーサルジョイント36とを備える風力推進手段とを包含する風力推進装置が図示されている。」(三頁右欄三三行ないし四頁左欄三行)、(4)「第2図を参照すれば円柱12が三軸線ユニバーサルジョイント36によつて前記台29に連結されている。前記ジョイント36は全体を不銹銅で作り且つ木ねじ37によつてペース27の両側に保持されている締め板38、40によつて円柱12に取付けられている。」(四頁左欄二〇行ないし二五行)、(5)「操作時に、使用者は円柱12をユニバーサルジョイント36にて取付けてある位置の背後において波乗り板10の上面28に立ち、一方のブーム16又はブーム18をにぎる。」(四頁右欄四四行ないし五頁左欄二行)、(6)「本発明によれば、風力推進手段をそのユニバーサルジョイントを介して回転及び起伏自在に波乗り板に連結したことにより、突風又は激風時に風力推進手段のブームから手を離せば、該風力推進手段はその帆に風を受けない方向へ倒れ、波乗

(一)  本件明細書において「ユニバーサルジョイント」の語が使用されている箇所としては、まず、特許請求の範囲の項において、「……該ブームをにぎる前記使用者か前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置。」(五頁右欄一七行ないし二一行。本件訂正公報における頁行を示す。この項において以下同じ。)との記載があるほか、発明の詳細な説明の項において、(1)「本発明は、使用者を支持する本体装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを含み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が記波帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置を提供する。」(三頁右欄一行ないし一二行)、(2)「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすり板を安定させ、その転ぶくを防ぐことができる。」(五頁右欄四行ないし九行)との各記載があり、また、図面の簡単な説明の項において、第2図の説明として、「第2図は第1図の線2-2における帆の回転及び起伏に使用するユニバーサルジョイントの断面図」(一頁左欄二行ないし四行)との記載がある。図面としては、風力推進装置の外観図である第1図(六頁)中に三軸線ユニバーサルジョイント36か記載されているが、同図ではその構造は不明であり、第2図(五頁)は、三軸線ユニバーサルジョイントの断面図であつて、その詳細な構造を明らかにしている。

(二)  本件明細書において、「ユニバーサルジョイント」として具体的にその構造が示されているものは、実施例である三軸線ユニバーサルジョイントのみであつて、その構造については、願書添付の図面に記載されており(本件訂正公報五頁2図)、また、その説明として、発明の詳細な説明の項において、「第2図を参照すれば円柱12が三軸線ユニバーサルジョイント36によつて前記台29に連結されている。前記ジョイント36は全体を不銹銅で作り且つ木ねじ37によつてペース27の両側に保持されている締め板38、40によつて円柱12に取付けられている。前記締め板38、40はペース27の幾分下までの延長部42、44を備えている。この延長部42、44は不銹鋼製管46の短い区画の両側に配置されている。1/4インチ(六・三mm)直径の頭付きピン48が前記締め板の延長部42、44の孔50、52の中をのび、頭付きピン48のコツタ孔56に挿入されたコツタビン54によつて回転自在に取付けられている。不銹鋼の板で作つたクレビス58が、その側面60(その中の一つだけを図示してある)を締め板の延長部42、44の下に横方向になるよう、管46上に配置されている。1/4インチ(六・三mm)直径の頭付きピン62(第2図に断面で示す)がクレビスの側面と管46の孔64を貫通しており且つ頭付きピン62のコッタ孔に入つたコッタピン(図示せず)によつて回転自在に取付けられている。前記頭付きピン48、62は相互に直交する水平の回転軸を構成し、ペース27は各回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ペース27に取付けられた円柱12を各回転軸のまわりに回転させ、波乗り板10で起伏させることができる。長さ3インチ(七六・二mm)、直径1/4インチ(六・三mm)の丸頭のねじ68がクレビス58のペース71の孔70を通りそこから座金72をその下の台29のほぞ孔78に入つているナツト74とロツクナツト76を通り、これによつてクレビス58をダガボード20に回転自在に取付けてある。ねじ68がクレビス58のペースを充分な遊びをおいて保持し、クレビス58を座金72に接触して回転可能としている。前記ねじ68は垂直の回転軸を構成し、ペース27はこの回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ペース27に取付けられた円柱12をこの回転軸のまわりに波乗り板10で回転させることができる。」(同四頁左欄二〇行ないし同頁右欄一五行)と記載されている。

3  右認定の事実によれば、本件明細書の特許請求の範囲の項には、「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」との記載があるところ、原告らは、右記載をもつて本件発明における「ユニバーサルジョイント」の構成が明確に定義されていると主張する。しかし、右記載は、「ユニバーサルジョイント」の作用ないしは機能を説明したにすぎないものであつて、これがいかなる構造のものであるか、その構成については何ら説明するものではない。

次に、発明の詳細な説明の項においては、まず、右同様の記載(前記2の認定事実(一)中の(1)の記載)があるが、この記載が「ユニバーサルジョイント」の構成を何ら説明するものではないことは、既に述べたのと同様である。このほかに、「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて波乗り板に風力推進手段の円柱か連結されている。」との記載(同(2)の記載)かあり、右記載について、原告らは、これによつて本件発明における「ユニバーサルジョイント」の構成がより詳細に定義されている旨主張し、これに対して、被告は、右記載は、「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手」と「使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」との二種類の継手があることを示しているものであり、「ユニバーサルジョイント」はこのうち前者の継手を意味するものである旨主張する。右記載において示された「ユニバーサルジョイント」の実施例がいかなる範囲のものを指すかについての判断はしばらくおくとしても、仮に原告ら主張のように「三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者か操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」というのが「ユニバーサルジョイント」の定義であるとしたところで、右記載からは、「ユニバーサルジョイント」の実施例として「三個の回転軸線を備えた接手」、すなわち、いわゆる三軸線ユニバーサルジョイント(その構造については、前認定のとおり、発明の詳細な説明の項及び図面において明らかにされている。)が含まれることは明らかとなるものの、「又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」については、その作用ないしは機能を述べるだけで、具体的にどのような構成のものがこれに当たるかは一切明らかでない(前認定のとおり、本件明細書においては、三軸線ユニバサルジョイントのほかには具体的な構成を明らかにする記載は、一切存在しない。)。また、「風力推進手段をそのユニバーサルジョイントを介して回転及び起伏自在に波乗り板に連結したことにより、」との記載(同(6)の記載)についても、同様に、この記載によつては、「ユニバーサルジョイント」の作用ないしは機能は明らかとされているが、その構成は一切明らかでない。発明の詳細な説明の項におけるその余の「ユニバーサルジョイント」の記載(同(3)、(4)、(5)の各記載)は、いずれも特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントの構造を説明するものである。

また、図面の簡単な説明の項において、第2図の説明として、「ユニバーサルジョイント」の語は用いられているものの、第2図においてその構造が示されているのは、特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントである。

そして、前認定のとおり、本件明細書において「ユニバーサルジョイント」の語が使用されている箇所は以上ですべてであつて、また、「ユニバーサルジョイント」の実施例についても、特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントの構造が明らかにされているだけであつて、それ以外の継手について、その構造を明らかとするような説明文も図面も一切存在しない。

右のとおり、本件明細書において用いられている「ユニバーサルジョイント」の語については、右に認定した以上に、右明細書上においてその内容ないし構造が説明あるいは図面によつて明らかにされているものとはいえない。

以上によれば、本件明細書においては、特許請求の範囲はもちろん、発明の詳細な説明の項及び図面を子細に検討しても、「ユニバーサルジョイント」については、風力推進手段を回転及び起伏自在に波乗り板に連結する作用ないしは機能を有するものであることか明らかにされているだけであつて、その構成については、その実施例として、唯一、三軸線ユニバーサルジョイントの構造が説明及び図面によつて示されているにすぎない。

4  そして、他方、被告製品においては、本体装置(ボード部)aとマストcとがジョイントkによつて連結されており、ジョイントkの構造が別紙目録ジョイントkの図面及びジョイント説明書記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

5  そこで、被告製品におけるジョイントkを本件明細書において「ユニバーサルジョイント」の実施例としてその構造が明らかにされている三軸線ユニバーサルジョイントと比較すると、右三軸線ユニバーサルジョイントは、前認定(前記2(二)記載)のとおり、頭付きピン48により円柱12と管46とを連結し、頭付きピン48と直交する頭付きピン62により管46とクレピス58とを連結し、更にこれを丸頭のねじ68により回転可能に波乗り板10に取り付ける方法により風力推進手段と波乗り板を連結するものであつて、頭付きピン48と頭付きピン62は相互に直交する水平の回転軸を構成し、円柱12を各回転軸のまわりに回転可能とすることを通じて、波乗り板10上で起伏させることを可能としているか、他方、被告製品のジョイントkは、全体に三つの部分、すなわち、上方部分であるマスト受部k1と、中間部分であるゴム製屈曲部k2と、下方部分であるボード結合部k3とからなり、マスト受部k1はゴム製屈曲部k2に対して中心軸線(ピンq)のまわりに回転できるようになつているものであつて、ゴム製屈曲部の材質自体の特性である弾性を利用することによつて前後左右の方向への屈曲傾斜を可能としているものであり、前記三軸線ユニバーサルジョイントにおける相互に直交する水平の二軸に相当する構造は存在しない。右によれば、被告製品におけるジョイントkと本件明細書における三軸線ユニバーサルジョイントとでは、風力推進手段を本体装置上で起伏自在とする構成において、技術的思想を異にするものというべきである。

6  そして、前述のとおり、本件発明における「ユニバーサルジョイント」について、本件明細書においてその構成が明らかにされているのは、特定の実施例でる三軸線ユニバーサルジョイントだけであることからすれば、少なくとも、被告製品におけるジョイントkのように、構成部材の材質の弾性を利用することによつて前後左右の方向への屈曲傾斜を可能とする構造については、本件明細書においてその技術事項の開示があるものと認めることができない。

したがつて、被告製品のジョイントkは、本件発明の構成要件Cの「ユニバーサルジョイント」に該当するものとはいえない。

7  このことは、次の点からも明らかである。

すなわち、前掲甲第一号証及び成立に争いのない甲第三号証によれば、当初の明細書の特許請求の範囲の項には、「1 使用者を支持するようになつた本体装置と、前記本体装置と旋回可能に協働し且つ推進力として風を受け入れるようになつた風力推進装置とを包含し、前記推進装置の位置が前記使用者によつて制御でき、前記推進装置が使用者の不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。」(本件公報三頁6欄一四行ないし一九行)と記載されていて、「ユニバーサルジョイント」の語は用いられておらず、発明の詳細な説明の項には、前記2の認定事実(一)の(2)とほぼ同一の後記記載(同一頁2欄二五行ないし二九行)、同(4)と同一の記載(同二頁3欄三八行ないし四三行)及び同(5)と同一の記載(同三頁5欄五行ないし八行)はあるものの、同(1)、(3)及び(6)に対応する記載はいずれもなく、他に「ユニバーサルジョイント」の語を用いた記載はない。図面の簡単な説明の項には前記2の認定事実(一)とほぼ同一の記載(同一頁1欄二〇行ないし二二行)があり、願書添付の図面についても、同(一)と同一の図面であることが認められる。

右のとおり、当初の明細書においては、特許請求の範囲の項に「ユニバーサルジョイント」の語はなく、また、前記2の認定事実(一)の(4)及び(5)と同一の記載中の「ユニバーサルジョイント」は、いずれも特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントを意味するものである。したがつて、特定の実施例である三軸線ユニバサールジョイントを離れての「ユニバーサルジョイント」の語は、前記2の認定事実(一)の(2)とほぼ同一の記載である「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて乗物本体に前記推進装置が連結されている。」との記載部分だけに存在することになる。そこで、右部分において「ユニバーサルジョイント」の語の意味する内容を検討するに、まず、右記載中の、「三個の回転軸線を備えた接手」と「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」との関係については、後者は具体的な構造を離れて抽象的な作用ないしは機能を説明する記載であつて、その意味する範囲は広範であり、前者も包含するものである。このように、「三個の回転軸線を備えた接手」が「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」に包含される関係にある以上、両者が、共に「ユニバーサルジョイント」の例示として、接続詞「又は」によつて結ばれる並列的な関係に立つものと解することはできない。そして、前記のような両者の内容的な関係にかんがみれば、通常の用語法としては、むしろ、「ユニバーサルジョイント」の例示としては「三個の回転軸線を備えた接手」のみであつて、「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手」と、それ以外の「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」とが、接続詞「又は」によつて並列的に結ばれているものと解するのが相当である。そうであれば、当初の明細書においては、「ユニバーサルジョイント」ついて、その例示として、「三個の回転軸線を備えた接手」、すなわち、三軸線ユニバーサルジョイントが挙げられているだけであつて、「ユニバーサルジョイント」以外にも「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」が存在することになる。右のとおり、「ユニバーサルジョイント」は、「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」のすべてではなく、そのうちの一部を指すものである以上、その意味する範囲は、例示されている唯一の例である三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する構造のもの、すなわち、相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものというべきである。

そして、当初の明細書の特許請求の範囲の項の記載は、前記のとおりであつて、そこでは風力推進装置と本体装置とを連結する継手については何ら触れられていないから、右記載からは、継手として「ユニバーサルジョイント」を用いたものであつても、それ以外のものを用いた場合であつても、特許請求の範囲に含まれ得ることになる。

当初の明細書における「ユニバーサルジョイント」の意味が右のようなものである以上、昭和五八年七月二七日付訂正審判請求に基づく訂正後の本件明細書においても、「ユニバーサルジョイント」の語は、他に特段の事情のない限り、右と同一の内容を意味するものとして理解すべきものというべきである。そして、本件明細書において、「ユニバーサルジョイント」の語について、その内容を定義した記載が新たに加えられたような事情のないことは、既に認定した事実により明らかであるから、結局、本件明細書における「ユニバーサルジョイント」の語は、当初の明細書におけるのと同様、三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する構造のもの、すなわち、相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものというべきである。

したがつて、前記訂正において、「ユニバーサルジョイント」の語を特許請求の範囲に持ち込むことにより、風力推進手段と本体装置とを連結する手段の構造をも構成要件の一つとした本件発明は、訂正前の当初の明細書における特許請求の範囲を減縮したものというべきであり、連結手段として、「使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」のうち前記のような「ユニバーサルジョイント」を用いているものだけが、特許請求の範囲に含まれるというべきである。

そして、被告製品において風力推進手段と本体装置とを連結しているジョイントkが、三軸線ユニバーサルジョイントないしはこれる類する構造のもの、すなわち、相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものに該当しないことは、前述のとおりであるから、被告製品は、本件発明における「ユニバーサルジョイント」を備えるものとはいえないことになる。

8  以上によれば、被告製品は、本件発明の構成要件Cの「ユニバーサルジョイント」を備えておらず、構成要件Cを充足しないから、本件発明の技術的範囲に属しないものというべきである。

五  次に、被告本体装置が本件発明の風力推進装置の生産にのみ使用する物に当たるか否かについて審案するに、被告本体装置を示すものであることについて当事者間に争いのない別紙目録の被告本体装置に関する記載によれば、被告本体装置が風力推進波乗り装置(セイリングボード)の本体装置(ボード部)として用いられる場合には、ジョイントとして「ジョイントk」が用いられるものであるところ、右の「ジョイントk」が本件発明の「ユニバーサルジョイント」に該当しないものであることは、前認定判断のとおりであるから、被告本体装置は、本件発明の風力推進装置の生産にのみ使用する物に当たらないものというほかはない。

六  よつて、原告らの本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条及び九三条一項本文の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 若林辰繁 裁判長裁判官房村精一は転官のため、裁判官三村量一は海外出張中のため署名捺印することができない 裁判官 若林辰繁)

目録

別紙図面(一タイプのもののみ例示)及び説明書に示すとおりの「風力推進波乗り装置(セイリングボード)」並びに同装置(セイリングボード)の本体装置(ボード部)(商品名は別紙「商品名一覧表」に記載したとおり)

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

説明書

一 別紙図面の説明

(一) 第1図は風力推進波乗り装置(セイリングボード)の側面図、第2図は風力推進装置(セイリングボード)のボード部の平面図、第3図は同側面図である。

(二) 各図の符合は、次の各部材を示す。

本体装置(ボード部)・・・・・・・・・・a

セイル・・・・・・・・・・・・・・・・・b

マスト・・・・・・・・・・・・・・・・・c

ブーム・・・・・・・・・・・・・・・・・d

ウインドウ・・・・・・・・・・・・・・・e

切欠・・・・・・・・・・・・・・・・・・g

マストスリーブ・・・・・・・・・・・・・h

ブームジョーアウト・・・・・・・・・・・i

ブームジョーイン・・・・・・・・・・・・j

ジョイント・・・・・・・・・・・・・・・k

テイル・・・・・・・・・・・・・・・・・m

ダガボード・・・・・・・・・・・・・・・n

スケグ・・・・・・・・・・・・・・・・・o

ジョイントボツクス・・・・・・・・・・・p

ダガボードウエル・・・・・・・・・・・・q

ジョンイトボツクス用穴・・・・・・・・・r

二 風力推進装置(セイリングボード)の構造

1 波乗り板を形成する本体装置(ボード部)aの下面後方にはスケグoが装着されている。

2 本体装置(ボード部)aにはジョイントkの下端部が結合され、ジョイントkの上部にはマストcの下端部が嵌合されている。

3 マストcにはウインドウeを有するbの一辺のマストスリーブ(筒状部)hが嵌装され、セイルbの両側には二本のブームdが配設され、二本のブームdはマスト側(イン側)及びセイル端側(アウト側)の所定の位置でブームジョーインj及びブームジョーアウトiによつて連結され、ブーム部のイン側はマストcに、アウト側はセイル先端部に固定されている。

三 風力推進装置(セイリングボード)の作動態様

1 本体装置(ボード部)a上には使用者不在で、風力推進手段か旋回防止力を失い、水上に浮遊している状態から始まる。この状態においては、弾性の塩化ビニール樹脂からなるジョイントkは、全体が円筒形の部分と鼓形の部分からなり、その中段又は下段に配置された鼓形の部分の縮径部が屈曲し、ジョイントkに嵌合されたマストCとマストCに装着されたセイルbは、水面上に倒れている。

2 使用者は、本体装置(ボード部)a上の所定の位置に立つてマストCを引き起こし、セイルbの片側に配設されたブームdを両手でにぎつて、マストcに装着されたセイルbの位置を制御する。

3 使用者は、両手でにぎつたブームdを押し、引き、回転させて風向きに対し、セイルbを所望の位置に制御し、セイルbに必要な風力を受け入れてボードを望ましい方向に進行させる。この場合、セイルbの装着されたマストcと嵌合するジョイントkは、使用者が操作するブームdの動きに応じ、ジョイントkの軸線を中心として回転運動をし、また、前後左右等あらゆる方向に自由な角度で屈曲し、かつ、弾性素材からなるジョイントの復元力により容易に直立状態に戻すことができる。

4 本体装置(ボード部)aの下面に装着されたスケグoは水中にあつてボードの直進性を保持している。

5 使用者は、ウインドウeを通して、反対側の状況を知ることができる。

6 操縦中に、突然の強風が襲つた場合など、転覆の危険が発生したときは、使用者は、ブームdから両手を放し、セイルbを風下に倒れさせて風力を回避する。

四 本体装置(ボード部)の構造

1 右風力推進装置(セイリングボード)の波乗り板を形成する

ことができる本体装置(ボード部)aである。

2 右本体装置(ボード部)aは、各種長さ、幅、形状のものを含み、右本体装置(ボード部)a上には、前記マストCを本体装置(ボード部)aに連結することができるジョイントkを嵌入又は装着することができるジョイントボツクスp(又はジョイントボツクス用穴r)を備え、本体装置(ボード部)aの下面にはスケグoか装着され、あるいは右スケグoのほかにダガボードnがダガボードウエルqに嵌入されるようになつている。

〈省略〉

ジョイント説明書

一 図面の符号は、次の各部材を示す。

ジョイント・・・・・・・・・・・・・・・k

マスト受部(ジョイントの上方部分)・・・k1

ゴム製屈曲部(ジョイントの中間部分)・・k2

ボード結合部(ジョイントの下方部分)・・k3

ボード・・・・・・・・・・・・・・・・・p

ピン・・・・・・・・・・・・・・・・・・q

二 構造

ジョイントkは、全体に三つの部分、すなわち、上方部分であるマスト受部k1と、中間部分であるゴム製屈曲部k2と、下方部分であるボード結合部k3とからなる。マスト受部k1はゴム製屈曲部k2に対して中心軸線(ピンq)のまわりに回転できるように連結されている。

商品名一覧表

一 風力推進装置

CRIT D-二

六三〇

六〇一

三七〇

三五五

CID 三六

二 本体装置(ボード部)

CRIT 三二〇

六一〇

二七〇

二四五

訂正明細書

〈34〉風力推進装置

図面の簡単な説明

第1図は本発明の風力推進装置の外観図、第2図は第1図の線2-2における帆の回転及び起伏に使用するニニバーサルジヨイントの断面図、第3図は第1図の線3-3におけるブームとブームとの間の円柱側接合部の断面図、第4図は第1図の線4-4におけるブームとブームとの間の帆耳側接合部の断面図である。

発明の詳細な説明

本発明は風力推進装置に係る。

本発明が関係する分野は船特に帆船の分野である。

風力推進はボードや氷上ボートばかりでなく波乗り板のような船や陸上乗物例えば氷上ボートやそり、すなわち一般的に言えば任意の軽量な小型ボートの動力装置としても考えられてきた。普通は乗物に垂直に固定しているマストに帆を設けるか又は帆とマストを繰帆装置と制御板の細工にからませている。

帆を波乗り板に固定することによつてこの波乗り板としての乗しみは失われ且つ従来制御のために必要であつた熟練はもはや必要でなくなる。人々は軽量な帆船の速度と感じを得る代りに帆船を制御するに適当な熟練が必要となる。橫ゆれに対する安定性がない波乗り板に帆を取付けることによつて突風や激風によつて波乗り板が転ぶくする問題が発生する。

故に従来は備えていなかつた風力推進手段を波乗り板に設け、この風力推進手段を設けることによつて波乗り板の元の乗心地や波乗り板を突風や激風下で転ぶくさせない制御特性を失わないようにすることが必要である。

本発明の目的は風に対する感応性と速度を増大し且つ波乗り板の従来の乗心地と操縦性すなわら制御特性を増強してそれから得られるたのしみを増すようになつた風力推進手段を波乗り板に取付けることである。本発明は、使用者を支持する本体装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを言み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長い線部で取付けられた帆と、前記円柱のは方向に配置され、前記円柱及び帆を問に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた地で前記帆の帆にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するニニバーサルジヨイントとを備えることをとする、風力推進装置を提供する。

特定の実施例において、ユニバーサルジヨイント例えば3個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて波乗り板に風力推進手段の円柱が連結されている。

本発明は波乗り板にうまく利用できる。波乗り板のような橫ゆれに対する安定性の低い船にせかせ装置を設けることができる。せかせと言う言は航海技術者に公知である中央板とダガボード(dagger-board)を含み、また安定性を増すために船体から平らに又はななめに水中に突入したその他の実起物をも含んでいる。

本発明は殆んどすべての操縦とかじとりを帆を通じて行い、かじやその他の操縦機構を設けても良いが無くてもよい。帆をあやつることによつて加速、方向転換、上手回しを行うことができる。しかし乍ら帆は回転及び起伏自在になつているから使用者が帆を保持して船を安定させねばならない。突風又は激風時に使用者は帆を離せば、帆は直ちに風力を受けない方向に移動する。

第1図を参照すれば使用者を支持する波乗り板10と、推進力として風を受け入れる風力推進手段であつて円柱12と三角形の帆14と一対のブーム16、18と円柱12を波乗り板10に回転及び起伏自在に連結する三結線ニニバーサルジヨイント36とを備える風力推進手段とを包含する風力推進装置が図示されている。前記波乗り板10はその開口22の中に挿入され且つその底部から斜めに突出したダガボード20をせかせとして備えている。前記ダガボード20の上部は波乗り板10の上面28を幾分越えてのび、あとから充分に説明するように円柱12を枢着するための台29を提供している。

円柱12は丈夫な丸い細長いフアイバグラスの軸であり、この場合この軸は軽くするため中空になつているが中英な木や金属で作つても良く、その下端に円筒状の木製ベース27をくさび止めしてある。前記円柱12は帆14の揺動自在マストとなり、且つ帆14の長い端縁部31に沿つて上方に傾斜したへり30の中に挿入されている。前記帆14の底部は、円柱12に近い帆14の下端縁にあるアイレツト34の中に入つているローブ32によつて、前記円柱12に取付けられている。

第2図を参照すれば円柱12が三軸線ニニバーサルジヨイント36によつて前記台29に連結されている。前記ジヨイント36は全体を不銹鋼で作り且つ木ねじ37によつてベース27の両側に保持されている締め板38、40によつて円柱12に取付けられている。前記締め板38、40はベース27の幾分下までの延長部42、44を備えている。この延長部42、44は不銹鋼製管46の短い区画の両側に配置されている。1/4インチ(6.3mm)直径の頭付きピン48が前記締め板の延長部42、44の孔50、52の中をのび、頭付きピン48のコツタ孔56に挿入されたコツタピン54によつて回転自在に取付けられている。

不銹鋼の板で作つたクレピス58が、その側面60(その中の一つだけを図示してある)を締め板の延長部42、44の下に橫方向になるよう、管46上に配置されている。1/4インチ(6.3mm)直径の頭付きピン62(第2図に断面で示す)がクレピスの側面と管46の孔64を貫通しており且つ頭付きピン62のコツタ孔に入つたコツタピン(図示せず)によつて回転自在に取付けられている。前記頭付きピン48、62は相互に直交する水平の回転軸を構成し、ベース27は各回転軸のまわりに回転することができ、從つて、ベース27に取付けられた円柱12を各回転軸のまわりに回転させ、波乗り板10で起伏することができる。

長さ3インチ(76.2mm)、直径1/4インチ(6.3mm)の丸頭のねじ68がクレピス58のベース71の孔70を通りそこから会72をその下の台29のはそ孔78に入つているナツト74とロツクナツト76を通り、これによつてクレピス58をダガボード20に回転自在に取付けてある。ねじ68がグレピス58のベースを充分な遊びをおいて保持し、クレピス58を会72に接触して回転可能にしている。前記ねじ68は垂直の回転軸を構成し、ベース27はこの回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12をこの回転軸のまわりに波乗り板10で回転させることができる。

第1図と第3図を参照すれば、波乗り板10の表面28から4フイート(120cm)のところに層木製ブーム16、18を円柱の橫方向に設け、且つそれらの端部を弓形に連結してある。前記ブームの円柱側の端部は1インチ(25.4mm)幅の織物テーブのルーブ80によつて互に連結され且つ円柱12を間に入れて該円柱に連結されている。このテープループ80は帆のへり30の三日月形の孔82を通る円柱12を取り巻いている。前記テープループ80はい付け86によつて両に真リング84を保持している。このリング84は、木ねじ90によつてブーム16、18に固定した真製のフツク具88と係合することによつてテーブ80をブーム16、18に固定する。

第1図と第4図を参照すればブーム16、18はそれらの他端部において帆耳の端部にそれぞれ出し索の孔92、94を備え、またねじ99によつてブーム16、18に固定された索止め96、98を備えている。出し索100が一方のブーム18の索止め98からそのブーム18の出し索孔94を通り、帆耳104の補強した孔102を通り、第2ブーム16の出し索孔92を通り、両方の出し索孔94、92を通りそこから別のブーム16の索止め96に通される。これにより、ブーム16、18はそれらの他端部において互に連結され且つ帆耳に連結される.つぎに出し索をびんと張つて索止め96によつてしめつけて帆14をブーム16、18の間に保持する。

操作時に、使用者は円柱12をユニバーサルジヨイント36にて取付けてある位置の背後において波乗り板10の上面28に立ち、一方のブーム16又はブーム18をにぎる.若し使用者が風下に進行していて方向転換したいとき、彼は帆14を前方に傾け、風の力を波乗り板10の先端部に作用させ、帆14のどちらの側面が風にさらされているかに応じて、波乗り板10を左か右に方向転換させる.これに反して若し使用者が上手回し間切りをするために風にまともに向つていきないとき彼は帆14を後方に引いて風の力を波乗り板10の後方に作用させ、波乗り板10の後部を移動させて風にまともに向つていけるようにする.彼が風にまともに向いているとき彼は単に帆14の前部に歩いて、反対側のブームをにぎつて帆を調整して風が帆14を捕え波乗り板10が新らしいコースに入るようにすることによつて上手回しを完了する.速度を調整するため帆を前方と後方に移動させる.

突風によつて波乗り板10がひつくりかえろうとするおそれのあるとき使用者は単に帆をはなして風にまかせて危険を脱する.帆14はその円柱にローブ106を備えており、これによつて使用者は容易に帆を帆走状態に引張りもどすことができる。

本発明の範囲から逸脱することなく多くの修正変更を行うことができる.

本発明によれば、風力推進手段をそのユニバーサルジヨイントを介して回転及び起伏自在に波乗り板に連結したことにより、突風又は激風時に風力推進手段のブームから手をせば、該風力推進手段はその帆に風を受けない方向へ側れ、波乗り板を安定させ、その転ふくを防ぐことができる。

〈57〉特許請求の範囲

1 使用者を支持する本体装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを含み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の橫方向に配置され、前記円柱及び帆を問に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するニニバーサルジヨイントとを備えることをとする.風力推進装置.

FIG.3

〈省略〉

FIG.2

〈省略〉

FIG.1

〈省略〉

FIG.4

〈省略〉

〈50〉Int. Cl. B 63 h 〈52〉日本分類 84 E 8 84 J 21 日本国特許庁 〈11〉特許出願公告

昭46-19373

〈10〉特許公報

〈44〉公告 昭和46年(1971)5月31日

発明の数 1

〈54〉風力推進装置

〈21〉特願 昭44-18073

〈22〉出願 昭44(1969)3月11日

優先権主張 〈32〉1968年3月27日〈23〉アメリカ国〈31〉716547

〈72〉発明者 出願人に同じ

〈71〉出願人 ヘンリー・ホイール・シニバイツアー

アメリカ合衆国カリフオルニア州パシフイツク・パリセードス・ベイルート317

同 ジエームズ・ロバート・ドレークアメリカ合衆国カリフオルニア州サンタ・モニカ・メサ・ロード385

代理人 弁理士 浅村成久 外3名

図面の簡単な説明

第1図は本発明の風力推進装置の外観図、第2図は第1図の線2-2における帆の旋回運動に使用するユニバーサルジヨイントの断面図、第3図は第1図の線3-3におけるブームとブームとの間の円柱側接合部の断面図、第4図は第1図の線4-4におけるブームとブームとの間の帆耳側接合部の断面図である。

発明の詳細な説明

本発明は風力推進装置に係る。

本発明が関係する分野は船特に帆船並びに氷上ボートと陸上乗物の分野を含んでいる。

風力推進はボートや氷上ボートばかりでなく波乗り板のような船や陸上乗物例えば氷上ボートやそり、すなわち一般的に言えば任意の軽量な小型ボートの動力装置としても考えられてきた。普通は乗物に垂直に固定しているマストに帆を設けるか又は帆とマストを船帆装置と制御機構の工にからませている。

普通の帆のない乗物に帆を設ける効果はこの乗物を水上ボート又は陸上ボートにかえることである。すなわち帆を波乗り板に固定することによつてこの波乗り板とその楽しみは失われ且つ従来制御のために必要であつた熟練はもはや必要でなくなる。人々は軽量な帆船の速度と感じを得る代りに帆船を制御するに適当な熟練が必要となる。帆をつけるように修正した別の乗物についても同じような変化が生ずる。横ゆれに対する安定性がない乗物に帆を取付けることによつて突風や激風によつて乗物が転ぶくする問題が発生する。

故に従来は備えていなかつた風力推進装置を乗物に設け、この装置を設けることによつて乗物の元の乗心地や制御特性を失わないようにすることが必要である。

本発明は風に対する感応性と速度を増大し且つ従来の乗心地と操縦性を増強してそれから得られるたのしみを増すようになつた風力推進装置を乗物に取付けることである。使用者を支持するようになつた乗物の本体装置と、前記本体装置と旋回自在にして風を推進力として受け入れるようになつた風力推進装置を包含する風力推進機を提供する。前記風力推進装置の位置は使用者によつて制御することができ且つこのような制御を行わないとき旋回抵抗力が殆んどなくなる。

特定の実施例において、ユニバーサルジヨイント例えば3個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて乗物本体に前記推進装置が連結されている。

前記風力推進装置は乗物の本体に枢着した円柱と、これに取付けた帆とを包含している。使用者が帆の片側又は両側を把持できるような装置を設けている。すなわち帆をぴんと張るため円柱上に横方向に取付け手で保持するようになつたブームを設ける。特定の実施例において前記円柱にさまに且つ円柱を間に入れてアーチ状に連結される1対のブームを設ける。

本発明は水上や氷上ボートや陸上乗物に使用することができる。本発明はヨツトや小型自動車やカスーやこぎ舟等に使用できるが、波乗り板や氷上ボートやスケートボートやそりにもうまく利用できる。波乗り板のような横ゆれに対する安定性の低い船にせかせ装置を設けることができる。せかせと言う言葉は航海技術者に公知である中央板とダガボード(dagger-board)を含み、また安定性を増すために船体から平らに又はななめに水中に突入したその他の突起物をも含んでいる。

本発明は殆んどすべての操縦とかじとりを帆を通じて行い、かじやその他の操縦機構を設けても良いが無くてもよい。帆をあやつることによつて加速も方向転換も上手回しを行うことができる。しかし乍ら帆は旋回自在になつているから使用者が帆を保持して船を安定させねばならない。突風又は激風時に使用者は帆を離せば、帆は直ちに風力を受けない方向に移動する。

第1図を参照すれば波乗り板10と円柱12と三角形の帆14とブーム16、18とを包含する風力推進装置が図示されている。前記波乗り板10はその本体部に設けた開口22の中に挿入され且つその底部から斜めに突出したダガボード20をせかせとして備えている。前記ダガボード20の上部は波乗り板10の上面28を幾分越えてのび、あとから充分に説明するように円柱12を枢着するための台29を提供している。

円柱12は丈夫な丸い細長いフアイバグラスの軸であり、この場合この軸は軽くするため中空になつているが中実な木や金属で作つても良く、その下端に円筒状の木製ベース27をくさび止めしてある。前記円柱12は帆14の揺動自在マストとなり、且つ帆14の長い端縁部31に沿つて上方に傾斜したへり30の中に挿入されている。前記帆14の底部は、円柱12に近い帆14の下端縁にあるアイレツト34の中に入つているロープ32によつて、前記円柱12に取付けられている。

第2図を参照すれば円柱12が三軸線ユニバーサルジヨイント36によつて前記台29に連結されている。前記ジヨイント36は全体を不誘銅で作り且つ木ねじ37によつてベース27の両側に保持されている締め板38、40によつて円柱12に取付けられている。前記締め板38、40はベース27の幾分下までの延長部42、44を備えている。この延長部42、44は不誘銅製管46の短い区画の両側に配置されている。〈省略〉インチ(6.3mm)直径の頭付きピン48が前記締め板の延長部42、44の孔50、52の中をのび、頭付きピン48のコツタ孔56に挿入されたコツタピン54によつて回転自在に取付けられている。

不誘銅の板で作つたクレピス58が、その側面60(その中の一つだけを図示してある)を締め板の延長部42、44の下に横方向になるよう、管46上に配置されている。〈省略〉インチ(6.3mm)直径の頭付きピン62(第2図に断面で示す)がクレピスの側面と管46の孔64を貫通しており且つ頭付きピン62のコツタ孔に入つたコツタピン(図示せず)によつて回転自在に取付けられている。

長さ3インチ(76.2mm)、直径〈省略〉インチ(6.3mm)の丸頭のねじ68がクレピス58のベース71の孔70を通りそこから座会72をその下の台29のほぞ孔78に入つているナツト74とロツクナツト76を通り、これによつてクレピス58をダガボード20に回転自在に取付けてある。ねじ68がクレピス58のベースを充分を遊びをおいて保持し、クレピス58を座会72に接触して回転可能にしている。

第1図と第3図を参照すれば、波乗り板10の表面28から4フイート(120cm)のところに積層木製ブーム16、18を設け、且つそれらの端部を弓形に連結してある。前記ブームの円柱側の端部は1インチ(25.4mm)幅の物テープのループ80によつて互に連結され且つ円柱12に連結されている。このテープループ80は帆のへり30の三日月形の孔82を通る円柱12を取り巻いている。前記テープループ80はい付け86によつて両端にリング84を保持している。このリング84は、木ねじ90によつてブーム16、18に固定した製のフツク具88と係合することによつてテープ80をブーム16、18に固定する。

第1図と第4図を参照すればブーム16、18はその帆耳の端部にそれぞれ出し索の孔92、94を備え、またねじ99によつてブーム16、18に固定された索止め96、98を備えている。出し索100が一方のブーム18の索止め98からそのブーム18の出し索孔94を通り、帆耳104の補強した孔102を通り、第2ブーム16の出し索孔92を通り、両方の出し索孔94、92を通りそこから別のブーム16の索止め96に通される。つぎに出し索をぴんと張つて索止め96によつてしめつけて帆14をブーム16、18の間に保持する。

操作時に、使用者は円柱12をユニバーサルジヨイント36にて取付けてある位置の背後において波乗り板10の上面28に立ち、一方のブーム16又はブーム18をにぎる。若し使用者が風下に進行していて方向転換したいとき、彼は帆14を前方に傾け、風の力を波乗り板10の先端部に作用させ、帆14のどちらの側面が風にさらされているかに応じて、波乗り板10を左か右に方向転換させる。これに反して若し使用者が上手回し間切りをするために風にまともに向つていきたいとき彼は帆14を後方に引いて風の力を波乗り板10の後方に作用させ、波乗り板10の後部を移動させて風にまともに向つて行けるようにする。彼が風にまともに向いているとき彼は単に帆14の前部に歩いて、反対側のブームをにぎつて帆を調整して風が帆14を捕え波乗り板10が新らしいコースに入るようにすることによつて上手回しを完了する。速度を調整するため帆を前方と後方に移動させる。

突風によつて波乗り板10がひつくりかえろうとするおそれのあるとき使用者は単に帆をはなして風にまかせて危険を脱する。帆14はその円材にロープ106を備えており、これによつて使用者に容易に帆を帆走状態に引張りもどすことができる。

本発明の範囲から逸脱することなく多くの修正変更を行うことができる。

特許請求の範囲

1 使用者を支持するようになつた本体装置と、前記本体装置と旋回可能に協働し且つ推進力として風を受け入れるようになつた風力推進装置とを包含し、前記推進装置の位置が前記使用者によつて制御でき、前記推進装置が使用者の不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。

FIG.1

〈省略〉

FIG.2

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FIG.3

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FIG.4

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特許審判請求公告

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特許公報

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